誰かが言った――
誰かが言った――。
『この世界には、音楽ではなく“戦場”のために生まれたイヤホンがある』と。
それは、美しい旋律を奏でるための道具ではない。
余韻や響きといった“楽しみ”を一切排除し、 敵の位置を正確に把握するためだけに設計された、純粋な 聴覚の兵器だという。
戦場の音だけを捉える、冷徹なツール。
そんなものが本当に存在するのだろうか?
ゲーミングイヤホンと呼ばれる製品は数多くあれど、所詮は“ゲームを楽しむための道具”にすぎないはずだ……。
真偽を確かめるべく、我々は足を踏み出した。
そしてそこで出会ったのは、想像を遥かに超える異形のイヤホンだった――。
ポタオデとは:
ポータブルオーディオの略で、持ち運び可能な音楽再生機器全般を指します。具体的には、iPodやウォークマンなどのデジタルオーディオプレーヤー。また、それらに接続するヘッドホンやイヤホンなどが含まれます。
【図鑑No.003】勝つためのイヤホン
噂の”ブツ”を求め、我々はポタオデの密林「e☆イヤホン」へ!
様々なイヤホン・ヘッドホンをかき分けて進む。
まだ新発見されたばかりである7階層目「ゲーミングフロア」へと、一歩一歩進んでいく。
己の身体と向き合いならがら、着実に一歩ずつ進める。
階段を踏みしめるこの確かな一歩が、我々探検隊をいい結果へと導くのだ――。
いや、エレベーターでもいいんだけどさ。
「ここだッ!!」
間違いない。ここがゲーミングフロアだ。
そこに我々が探し求めた、あまりに華奢な”何か”が、ついにその正体を現した。
"勝つためのイヤホン"の正体は――
\ワン! トゥッ! トゥリッ!/
HID-Labs「DETECT」!!
「DETECT」は、HID-Labsが開発したFPSゲームのサウンドエンジンに最適化されたイヤホン。
音楽鑑賞などの汎用性を切り捨て、ただ一点に性能を振り切った異端の存在である。
【デザイン】
改めて、その異様な外観を調査しよう――と思った矢先。
「……え!?ちょっと待って??」
何かに気付いた調査員が駆け寄る。
「これ、糸やん。」
耳栓サイズの筐体から、線香花火の芯みたいな 極細のケーブルがぶら下がっている。
これ、絶対イヤホンケーブルの細さじゃない。
「あ、そうだ。ちょうど比較しやすそうなの持ってるわ。」
おもむろにポケットに手を突っ込み、比較対象になりうるであろうブツを探す。
「あった、あった。これだよ。」
「フードピック・アボカドバーガー。」
ポケットにたまたま入っていたフードピック・アボカドバーガーと並べてみると、 全っ然DETECTの方が細いことがわかる。
やはり細すぎるレベル。
ここまで細いと、もはや"イヤホンケーブル"というよりは"糸"の方が近い。
だが一番気になるのは、やはりこのシンプルな外観だろう。一見すれば「耐久性を無視したコストカット製品」に見えるが――それはあまりに早計。
この華奢な見た目こそ、「DETECT」が“兵器”たる所以なのだ。
この軽量化の極致にいるような筐体のおかげで、数時間に及ぶプレイでも装着していることを忘れさせることができる。
上からヘッドセットを重ねても干渉ゼロ。
ヘッドセットで遮音性をさらに高めたり、ボイスチャット用のマイクだけヘッドセットを使い、音はDETECTで聴く。
そんなハイブリッドな使い方まで想定されている。
……ここまで考えてるの、怖くない?
弱点に見えたその姿は、実は 長時間の戦闘を想定した計算の塊。
「マウスも軽い方がいいなら、音も“身軽”にできないか?」
そんな設計者の声が、確かに聞こえてくるようだ。
【特別分析】既知の種との比較調査(外観)
ゲーミングイヤホンとしても使われる現在の人気製品と比較してみよう
見ての通り、DETECTの小ささは群を抜いている。
これはどちらが優れているという話ではなく、別系統の進化なのである。
「eスポ-ツ」という長時間の戦場において、この小回りの効く快適性がどれほどの武器になるかは言うまでもないだろう。
【装着】
さっそく装着してみよう。
強く握ることを本能的にためらってしまうような華奢な筐体を持ちあげて、耳へ装着する。
小さな筐体を耳に滑り込ませると、思った以上にしっかりと固定され、外音をギュッと遮音しているのが分かる。
耳の奥にぴたりと密着し、全くズレる気配がない。見た目はまるで耳栓だが、着け心地は驚くほど自然だ。
筐体の角は感じず、イヤーピースがうまく支点になって耳の内側を避けているのが、この細い筐体の利点だろう。
そのため、密閉感はあるのに不快な圧迫感や痛みはない。
ケーブルも信じられないほど軽く、重さの存在を忘れるほどだ。
長時間装着しても耳が痛くならない――まさに“戦うための耳栓”。
ゲーミングで数時間プレイするプレイヤーにとって、この装着感は一つの“勝利条件”と言える。これは一度試してほしい感覚だ。
DETECTの装着方法は耳掛けでも、そうでなくても大丈夫らしい。
自分にあった装着感で選ぶといい。
【サウンド】
装着感は予想外に良好。……だが、問題は音。
このあまりにチープな外観を前に、我々の期待値は限りなく低かった。
まるで付属品か、100円ショップで売られているイヤホンのようだ。本当にこれが、”戦場”を生き抜くためのツールだというのか?
半信半疑のまま、我々は再生ボタンを押した。
直後!!!!
「なんだァッッ!!??」
鼓膜が…いや、 脳が理解を拒む。
音楽鑑賞で是とされる「音の豊かさ」。その一切を削ぎ落とした、あまりに鋭利な”情報”が、三半規管を直接揺さぶるッッ!!!
これは音ではない。 距離!方向!材質!敵(ターゲット)の存在を決定づける”因果”そのものだッッ!!!
――と、脳内で過剰なナレーションが再生されるほどの衝撃だった。
改めて冷静に分析しよう。 まず音楽だが……これは、ひどい。そして、面白い。
残響感も音の色艶も、まるで存在しない。全ての楽器とボーカルが、お互いを無視してバラバラに、しかし恐ろしく明瞭に鳴っている。
これは音楽としての「まとまり」を完全に捨て去り、「聞き分ける」ことだけに特化した結果だ。
数万円クラスのDACアンプで強制的に”化粧”を施さない限り、音楽を楽しむのは極めて困難だろう。
だが、それでいい。これは”FPS特化イヤホン”なのだから。本領はそこではない。
多くのゲーミングイヤホンが、爆発音の臨場感を増すための過剰な低音や、聞き分けのために極端な高音を目指す中で、DETECTは全く違う道を選んだ。
臨場感をあえて捨てて極端な低音や余韻をカットし、鋭すぎる高音の尖りを丸めることで、戦場に必要な足音と銃声だけが驚くほどすっきりと浮かび上がるのだ。
実際にFPSの音源を聴けばその実力は明らかだ。
右上手前から右上後ろへ、といった複雑な移動も、音の輪郭が一切ぼやけずに正確に追える。
目を閉じても敵の位置がわかるこの感覚は、歴戦のゲーミングイヤホンの中でも間違いなくトップクラスだ。
そしてそのFPSに特化した性能は、専用モジュールを使うことでさらに加速する。
そうDETECTは、戦場にいるような”リアルな感じ”を激減させる代わりに、勝利に必要な”情報”だけを完璧に届ける、冷徹なツールなのである。
【特別分析】既知の種との比較調査(音質)
この新種『DETECT』がいかに異質か……。それを明らかにするため、先ほど筐体を並べたイヤホン達とサウンドを比較してみよう。
その結果がこれだ↓
この比較を終えても他の機種を寄せ付けないほど、FPSに特化した音の発生した方向、定位への強いこだわりをひしひしと感じる。
勝つために音楽をそぎ落としたといっても過言ではないDETECTの尖り具合の前には、……もはや、語る余地すらない。
よって――
FPS特化、唯一無二。
【評価】
見た目に騙されるな。
これは、音の楽しみを捨てて勝利にのみ奉仕する、孤高の求道者である。
音楽を聴けば、その無味乾燥な音に失望するだろう。
だが、一度戦場に立てば、これほど頼りになる相棒はいない。
”聴覚”を”兵器”へと進化させる、唯一無二の存在だ。
よって、探検隊による最終評価をここに記す。
汎用性: ★☆☆☆☆
(星1つであることに誇りを持っている)
FPS特化度: ★★★★★
(これ以外の選択肢はない)
隠密性(軽さ): ★★★★★
(装着していることを忘れるレベル)
捕獲難易度(価格): ★★★☆☆
(性能を考えれば妥当だが、覚悟は必要)
こうして、大図鑑の1ページを埋めることに成功した。
だが、世界のどこかにはまだ見ぬ変わった製品が数多く存在しているはずだ。
我々の探索は、まだ始まったばかりである。
本日の図鑑登録製品
HID-Labs DETECT
その他 大図鑑シリーズ
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