近年続々と高音質ポータブルDACが発売されていますが、そのなかでもcayin RU9は極めて特殊なキャラクターをもっています。それは、「とにかく濃く、生っぽい」音がするということです。DACなのに、ライブハウスの匂いがする。この点が、NiPO A100やFiio Q15といった近年のDACが得意とするデジタルな鳴り方とは根本的に違います。
以下、
【1.音質の特徴】
【2.携帯性、利便性】
の二点に分けてレビューをしていきます。
【1.音質の特徴】
三つのモードがありますが、いずれのモードにも共通しているのは、メロディーラインが強調され、熱っぽい表現を帯びるという点です。他社製のDAC・DAPによくある、コンサートホールを俯瞰するような冷静な鳴り方とは対照的です。
参考までに、私は以下のようにモードを使い分けています。
クラシックチューブ(真空管メインの鳴り方):バラード、モダンジャズ、ピアノソロ
モダンチューブ(真空管+デジタル回路):アニソン、J-pop、rock
ソリッドステート(デジタル回路メイン):クラシック
(A)クラシックチューブ
一番真空管の音が強く乗るモードです。まず印象的なのは、メロディーへの没入感。主旋律の線が非常に太くなり、それ以外の音がやや背景に退きます(といっても最低限の音場の広さはある)。真空管の特徴を「音数が減って聞こえる」と説明する方もいますが、より本質的なのはおそらく、音と音の境目がなくなって聞こえることだと思います。メロディーとして一体になって聞こえる感じです。その結果、演奏者のライブ感ある熱量、息遣い、情感がダイレクトに伝わってきます。
とりわけ素晴らしいのは、女性ボーカルやサックスの艶やかさ。バラードやモダンジャズと非常に相性がよいです。ライブ盤を聞いている感覚に近い。スタジオ録音された音源であることを忘れそうになるほど。
おそらくこれは、真空管のもたらす不規則な音のゆらぎによるものでしょう。声や楽器の音は本来、常に微妙にゆらいでおり、それが「ライブっぽさ」をもたらすのですが、真空管が疑似的にこの「ライブっぽさ」を再現しているのかもしれません。私たちがいかにふだん「デジタル」な音を聞くことに慣れているのかを思い知らされました。
(B)モダンチューブ
後述するソリッドステートに、真空管的な風味を足したような鳴り方です。音場が広がり、より立体的な鳴り方をするようになります。
クラシックチューブと同様に、このモードでもボーカルや楽器の音色が生っぽい湿度をもって聞こえてきます。それでいて、主旋律以外の背景はデジタルオーディオらしい広がりをもって、主旋律を支えている。ギターやドラムの熱量を感じます。ゆったりとした鳴り方ではありますが、激しめで暴力的な表現までそつなくこなしてくれます。
おそらく多くのアニソン、J…