Final S5000を使って最初に感じたのは、音数の多い近年のJ-POPでは音の立ち上がりがやや追いつかず、モコモコした印象になることでした。もちろんすべての曲がそうというわけではありませんが、例えばMrs. GREEN APPLEのような音数が多く爽やかなサウンドのバンドや、YOASOBIのような打ち込み主体のアーティストの楽曲では、あまり相性が良くないと感じました。
そのため、最新のJ-POPやアニメソングを好み、気になった楽曲をストリーミングでお気に入りに追加して、ランダム再生するスタイルの方には、S5000はあまりおすすめできないと思います。
一方で、このイヤホンの真価が発揮されるのはボーカルを中心とした歌謡曲やフォークソング、音数の少ないジャズといったジャンルです。私は普段、さだまさし氏の楽曲をよく聴いていますが、手持ちの20万円クラスのハイエンドイヤホンをいくつか所有している中でも、このS5000が最も自分の好みに合った音を鳴らしてくれます。
Mrs. GREEN APPLEなどの楽曲では弱点となった立ち上がりの緩さや滲み、響きの豊かさが、アナログ録音時代の楽曲ではむしろ強みになります。録音に含まれるノイズ成分を柔らかくマスキングしつつ、歌声やバイオリンを非常に艶やかに浮かび上がらせるのです。
また、final heaven V agingでは高音が鋭く刺さり、まともに聴けなかった「自分症候群」や「Glass Age」などのアルバムも、S5000では一切刺さることなく、心地良く聴くことができました。
さらに、さだまさしやイルカ、中島みゆきといった1970～80年代の邦楽では、アナログ特有の温かみや味わいのある録音が魅力ですが、Sennheiser IE900のような高解像度・高レスポンスモデルでは逆にノイズが強調され、録音の粗さやダイナミックレンジの狭さが目立ち、あまり心地よく聴くことができませんでした。古いジャズ音源でも同じ傾向が見られました。
しかしS5000ではそうした粗さが適度に抑えられ、楽曲本来の質感や温もりを自然な形で楽しむことができ、非常に満足しています。
性能面については、S5000は解像度が特別高いわけではなく、音場も突出して広いわけではありません。最先端技術が盛り込まれたモデルでもありません。
単純な性能比較であれば、同社のA6000やDUNUのDa Vinciといった5万円クラスのイヤホンがオールラウンダーとして優秀だと思います。
ただし、それらのモデルにはさらに上位モデル（例：A6000ならA10000など）が存在し、もし「40万円好きに使える」と言われたなら、私は間違いなくA6000ではなくA10000や他社のハイエンド機種を選びます。
S5000はそういった製品群とは全く異なるポジションのイヤホンです。非常に限定的なジャンルの中ではありますが、このイヤホンは明確に頂点のひとつと言える存在です。
特に私のように歌謡曲やフォークソング、古いジャズ録音などを中心に聴くリスナーにとっては、S5000が“終着点”になり得るだけの実力があります。
音の傾向は異なりますが、最高峰と評されるIE900、qdc…
