

最近、テレビやサウンドバーのカタログ、Netflixや映画館などで「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」というロゴを目にする機会が増えたと感じませんか。なんだか高音質になりそう、というイメージはあっても、具体的に何がすごいのか、今までのサラウンドと何が違うのか、よく分からない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんなDolby Atmosの基本的な知識から、その魅力、自宅で楽しむための方法まで、 サウンドエンジニアの戸田清章さん のインタビューを元に紹介します。

Dolby Atmos(ドルビーアトモス)とは?新時代の立体音響技術

Dolby Atmosとは、米国のドルビーラボラトリーズ社が開発した、最新の立体音響技術です。これまでの前後左右からの音に「高さ」の情報を加えることで、まるでその場にいるかのような、三次元的で臨場感あふれる音響空間を創り出します。
世界で初のDolby ノイズリダクション技術を採用した映画は「時計仕掛けのオレンジ」と言われています。
また、日本では2013年に映画館で初めて導入されて以来、現在ではホームシアターシステムやテレビ、スマートフォン、さらには音楽配信やゲームに至るまで、様々な分野で採用が広がっています。
Dolby Atmos(ドルビーアトモス)と従来の音響の違いについて
音響技術は、時間の経過と共に進化を遂げてきました。Dolby Atmosについての理解を深めるために、まずは今日までの音響技術の種類について紹介していきます。
モノラル(1チャンネル)

音源が1つのみの最も基本的な形式です。昔の携帯ラジオや小型のBluetoothスピーカーなどで採用されています。
ステレオ(2チャンネル)

左右2つの音源があり、音に広がりが生まれます。イヤホン、ヘッドホン、家庭用テレビやスピーカーで一般的です。
サラウンド(5.1チャンネル、7.1チャンネルなど)
ステレオよりもさらに音の広がりを拡大し、後ろまで音が回り込むようなサウンドを実現します。

5.1チャンネルは、フロント左右、センター、サラウンド左右の5つのスピーカーに加え、低音専用のサブウーハーで構成されます。サブウーハーは超低音域の再生を担当します。

7.1チャンネルは、フロント左右、センター、サラウンド左右に加え、サラウンドの後ろ左右にもスピーカーが加わることで、さらに包み込まれる感覚が増します。
これらのチャンネルベースのシステムでは、スピーカーの配置により「正面から2人、または周囲から5〜7人に話しかけられているような」感覚で、より立体的な、あるいは包み込まれるような感覚が得られます。
Dolby Atmosが提供するイマーシブサウンド(7.1.2や7.1.4チャンネルなど)

Dolby Atmosが提供する「イマーシブサウンド(没入感のある音)」は、従来の「円のような回り込み」から「半球体のような包み込み」へと音響体験を変化させます。これは、7.1.2チャンネルや7.1.4チャンネルといった表記で示されるように、チャンネル数が増えるだけでなく、頭上や天井のトップ部分にスピーカーが追加される点が最大の特徴です。これにより、より立体的で現実的な音響体験が可能になります。
さらに、Dolby Atmosの最大の特徴は、対応している配信、対応のスマホ、対応のイヤホン・ヘッドホンがあればスピーカーが複数個用意されていなくても再生できる点にあります。
Dolby Atmos(ドルビーアトモス)の立体的な音響はどのようにして創られるのか

Dolby Atmosの音響制作の秘密は、従来の平面的な作り方とは異なる「オブジェクトベース」と呼ばれる方法にあります。
従来のチャンネルベース
あらかじめそれぞれのスピーカーに音を割り振り、それを再生します。例えば5.1チャンネルの場合、5個のスピーカーと低音部分で鳴らすことを前提に、音楽データが作られます。
オブジェクトベースオーディオ
音声が特定のチャンネルに割り当てられるのではなく、仮想空間の中に音源を配置するという概念です。この音源に位置情報(例:「頭の上から鳴らしましょう」など)を持たせ、再生機器がその情報を受け取ります。そして、スピーカーの設置位置に合わせてリアルタイムにレンダリングを行い再生することで、例えば5個分のスピーカーがなくても2個分のスピーカーで再生が可能となります。
このオブジェクトベースオーディオは、従来のサラウンドシステムが抱えていた「再現性の問題」(多数のスピーカー配置が必要なハードルの高さ)を解決し、対応する機器さえあれば少ないスピーカーでも手軽に立体的なサウンドを楽しむことを可能にしました。
Dolby Atmos(ドルビーアトモス)がもたらす3つのメリット

Dolby Atmosを導入することで、私たちのエンタメ体験はどのように変わるのでしょうか。ここでは、主な3つのメリットをご紹介します。
まるで映画の世界にいるような圧倒的な没入感
Dolby Atmosがもたらす最大のメリットは、その圧倒的な没入感です。例えば、映画の戦闘シーンで弾丸が頭上をかすめる音、ジャングルで鳥たちが様々な方向から鳴き交わす声、コンサートホールでの拍手喝采が上から降り注ぐ感覚など、あらゆる音が360度、全方向からあなたを包み込みます。これにより、単に映像を「観ている」のではなく、まるで物語の世界の「中にいる」かのような、深い一体感を味わうことができます。
上下左右からのリアルな音の移動を再現
オブジェクトベースオーディオの採用により、音の移動が非常に滑らかでリアルになります。画面の右から左へ車が走り去る音、背後から接近してきて頭上を飛び去る飛行機の音など、映像と完全にシンクロした音の動きを正確に再現します。このリアルな音の動きは、アクション映画やシューティングゲームなど、状況把握が重要になるコンテンツで特に威力を発揮し、これまでにない興奮とスリルを提供してくれます。
アーティストの意図を忠実に表現する高音質
Dolby Atmosは、制作者が意図した音響を忠実に再現することにも長けています。クリエイターは、最大128個もの音(オーディオオブジェクト)を3次元空間内の好きな場所に配置できるため、より繊細で複雑な音響デザインが可能になりました。音楽ライブの映像であれば、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、そして観客の歓声といった各パートが明確に分離し、それぞれの位置関係がはっきりと感じられます。これにより、まるでライブ会場の特等席で聴いているかのような、クリアで臨場感あふれる音楽体験が実現するのです。
▼【Dolby Atmos対応】おすすめイヤホン
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Dolby Atmosを体験する方法

Dolby Atmosは、映画館でその迫力を体験できます。「ドルビーアトモス 映画館」で検索すると対応映画館が見つかりますが、Dolby Atmosに「きっちり」対応している映画館は比較的少ないのが現状です。
下記がDolby Atmosに対応している映画館の例。
ただし、Dolby Atmosは対応する機器さえ用意すれば、自宅でも楽しむことができます。ここでは自宅でもDolby Atmosを楽しむ方法を紹介します。
Dolby Atmosを体験するために必要な要素
自宅でDolby Atmosを体験するためには、以下の3つの要素がDolby Atmosに対応していることが重要です。
Dolby Atmos対応のコンテンツ:まず、Dolby Atmosで配信されているコンテンツである必要があります。
再生機器(スマートフォン、タブレットなど):音源を受け取る側の機器がDolby Atmosに対応している必要があります。例えば、iPhone 15が対応機器として挙げられます。
オーディオ機器(イヤホン、ヘッドホン):Dolby Atmos対応のイヤホンやヘッドホンが必要です。
iPhoneの場合、AirPods、AirPods Pro、AirPods MAX、Beats Fit Pro、Beats STUDIO PROなどが対応機器として挙げられています。
Androidスマートフォンの場合、スマートフォン自体が対応していれば、イヤホンはDolby Atmos対応でなくても、どのイヤホンでもDolby Atmosの再生が可能とされています。
NE STREAM LiveでのDolby Atmos体験

自宅でDolby Atmosを体験できるコンテンツとして、今回はNE STREAM Liveを例に紹介します。NE STREAM Liveは、ラディウス社が手掛けるリアルタイムストリーミングサービスです。スマートフォンでライブ会場にいるような臨場感のある音質と迫力のある画質を楽しむことができます。
- NE STREAM Liveアプリをダウンロードします。
手持ちのスマートフォン(またはタブレット)とイヤホン/ヘッドホンがDolby Atmosに対応しているか確認します。
アプリを起動し、シリアルコードを入力します(DVDの特典や購入で入手可能)。
NE STREAM Liveでは、無料で聴けるDolby Atmosコンテンツも多数用意されており、手軽に試すことができます。
音質はDolby Atmosの臨場感ある音で、映像は4Kで配信されているため、高音質・高画質で楽しめます。
※今回は、サウンドエンジニア戸田誠治氏が手掛けた「桃色クリスマス 2023 プレイヤーズ」の再生をおすすめします。モモクロのステージの動きもトラッキングしてサウンドに反映した、「超いい席でのライブを体験できる」力作となっています。

その他のDolby Atmos対応のコンテンツ
NE STREAM Live以外のDolby Atmos形式で音声が収録されたコンテンツも紹介します。
サービスの種類 |
具体例 |
動画配信サービス | Netflix、U-NEXT、Amazonプライム・ビデオ、Disney+、Apple TV+など |
ディスクメディア | Ultra HDブルーレイ、一部のブルーレイディスク |
音楽配信サービス | Apple Music、Amazon Music Unlimitedなど |
ゲーム | Xboxシリーズ、PlayStation 5の一部の対応ソフト |
▼【Dolby Atmos対応】おすすめヘッドホン
▼【Dolby Atmos対応】おすすめヘッドホン
スピーカーの種類と最適な配置方法

最後に自宅で本格的なDolby Atmos環境を構築したい方に向けて、おすすめのスピーカーの種類と設置方法を紹介します。
天井に設置する「オーバーヘッドスピーカー」
最も理想的なのは、視聴位置の真上や斜め前方の天井にスピーカーを直接設置する方法です。音が真上から降り注ぐため、最もクリアでダイレクトな高さ表現が得られます。しかし、設置には工事が必要になる場合が多く、導入のハードルは高めです。
天井の反射を利用する「イネーブルドスピーカー」
より手軽な方法として人気なのが「ドルビーイネーブルドスピーカー」です。これは、スピーカーユニットが斜め上を向いており、その音を天井に一度反射させてから視聴者に届ける仕組みです。既存のフロントスピーカーやリアスピーカーの上に置くだけで設置できるため、大掛かりな工事は不要です。サウンドバーの中には、この機能を内蔵した「アップワードファイアリングスピーカー」搭載モデルも多くあります。
仮想的に高さを再現するバーチャライザー技術
ハイトスピーカーを設置できない環境でも、仮想的に高さ方向の音を再現する「Dolby Atmos Height Virtualizer」などの技術があります。フロントスピーカーなど、手持ちのスピーカーだけで擬似的な立体音響を作り出すことができます。もちろん物理的なスピーカーには劣りますが、手軽にDolby Atmosの雰囲気を味わいたい場合に有効な選択肢です。
▼【Dolby Atmos対応】おすすめスピーカー
▼【Dolby Atmos対応】おすすめスピーカー
まとめ

Dolby Atmosは、球体に包み込まれるような立体的な音響であり、まるでその場にいるかのような圧倒的な没入感をもたらします。
この体験を実現するためには、Dolby Atmos対応のコンテンツ、再生機器、オーディオ機器の組み合わせを準備する必要があります。特に、NE STREAM Liveを利用することで、スマートフォンやタブレットで手軽に立体的な音と4K映像を楽しむことができます。
【関連動画】
イヤホン・ヘッドホンを1000機種以上レビューしているスタッフ「はまちゃん」がDolby Atmosについて詳しく解説しています! この記事で気になった方は、ぜひご覧ください‼
