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スタッフレビュー詳細

「名門」が唱える「入門機」の定義

心地よい耳触りと、聴き応えのある濃密さを両立させた新たな名機候補。それがこちら、Meze Audioの「ALBA」です。「音にこだわる」ことの良さを時代に合った気軽さで持ち歩けるというのも、ブランドが考える「一台目の定義」として申し分ないと思わされました。

聴いてみると、とにかく角がなく滑らかなサウンドというのがまず飛び込んできた印象です。薄味ではないのに圧力は少ない、「体に沁み渡る音」と言ったところでしょうか。

本機のファーストインプレッションを形作る重要な要素として、空間表現の巧みさが挙げられます。横方向をベースに比較的広く取られている空間を活かしつつ、気持ち上へと抜けていく様が清々しいです。そんな空間に対する情報量にも不足はなく、密度感すら感じられます。それでいて窮屈な感じ、圧迫感はまるでなく、「しつこくない且つジューシー」な聴感でした。中でも楽器隊の広がりが顕著で、クールな音色の消え際の仄かな残響感が儚げです。その特性ゆえ、ミドルテンポ以下の楽曲の立体感を表現するのに非常に長けていると感じました。一方で、ハードロックやヒップホップなどのアタック感や重量感を感じたい方には別の選択肢があるのかもしれません。良い意味で力感なくスマートに鳴らすこの感触をどう捉えるか次第で、チョイスも変わってくると思います。

伸び伸びとした演奏に対してボーカルの距離は一歩近く、存在感は太めです。目前で発せられているような艶やかさ、生々しさは、そこに確かに息づく実在感を伴います。声の出どころは近めに感じますが、こちらも圧迫感はまるでなく、聴き手を吹き抜けていくような気持ちよさを体感できました。左右に広がる演奏に対して、こちらは前後の奥行きを感じるのが対比として面白いです。以上の所感から、本機の中高音域へのこだわりがひしひしと伝わってきます。情報量、スピード感がありつつも、あくまで優しく聴かせ、広々とした表現も聴き手を置き去りにしません。当事者感のある音というのがしっくりきます。前後も左右も共に味わえる空間表現によって、音楽が立体的に立ち上がる様も見事でした。結果としての「音楽体験」のことが非常によく考えられている音作りだと思います。

さて、オーディオファンからビギナー層のお客様まで、個人的に最も問い合わせが多いと感じる低音について触れていませんでしたが、こちらも表現に十分な量があります。あるのに、そのウエイトよりも深みの印象が強く残るのが不思議なところです。ボーカル帯とは対照的に出どころに一定の距離を感じるところがポイントかと思います。質感も他帯域と比較して柔らかく、耳触りの良い仕上がりです。その一歩引いたポジショニングとアプローチは、まさしく上品そのもの。他の音を邪魔せず、飲まず、あくまでも支え、引き立てる佇まいで、協調性のある鳴りという印象でした。全体的に抜けていく空間の感じを低音で上手くパッケージしているとも言えると思います。音楽の造形としての美しさ、その仕上げの部分をこの帯域が担っていると感じました。ただ、やはり低音の存在感を最重要視される方にとっては少し物足りない可能性もあるので、一度聴いて確かめてみることをおすすめします。

分離、定位感についてもまずまずありますが、固執しておらず、楽曲の一体感、グルーヴィーな感触というものが大切にされています。中域が前に出ることで楽曲の最大の旨味であるメロディーラインを主役に置きつつ、定位と空間表現による味付けを絶妙なバランス感覚で描写しているので、インスト楽曲やジャズテイストのものも、聴き方を見つけやすい親切設計になっていると感じました。

以上のように非常に丁寧に楽曲を表現してくれる本機ですが、音の温度感としては寒色寄りで澄み渡っています。優しさは湛えつつも、寄り添い包み込んでくれる暖かい音というのとは少し違います。スピード感を持って音が次々とシャープに駆け抜けていく、けれど置いてはいかれない、そんなギャップが癖になりました。ただ、音に対して明確な好みがある方にとってここは好みが分かれる部分となりそうです。私は凄く好きでした。上品で上質な音楽体験である一方、少し突き放されるような冷たさをはらむ本機で音楽を聴いていると、個人的には何かに憧れる時のような焦がれる感覚を覚えました。

さて、そんな本機のハード面に関しては、装着感がとても軽く、疲れ知らずといった感触でした。長時間の装着にも余裕で耐え得る仕上がりです。付属のキャリングケースもコンパクトながら質感が高く、持ち歩くことそのものに意味を持たせられるクオリティとなっています。それに加えて、USB-C to 3.5mmアダプターが同梱されているのも嬉しいポイントです。純正ケーブルと同じ素材を用いているので、こだわり抜かれたサウンドをスマホで直感的に楽しむことができます。この再生機器を選ばない間口の広さも、本機を選ぶ大きなメリットになっていると思います。ただ一方で、装着感の軽さゆえ、ホールド感や遮音性は僅かに薄く感じられます。ガッチリとした装着感がお好みの方や、静寂による没入感を重視される方には、イヤーピースの交換も選択肢に入ってくるのかなと思います。

以上のことから、音はもちろんビルドや付属品も含めて、音楽へ対するリスペクトが感じられるような一本に思えます。エントリーだからと妥協せず、作り込まれたサウンドから、音楽というものの唯一性、感情的な部分を再認識させられ、聴いていて胸が熱くなりました。「オーディオ体験」そのものに重きを置いているところに、名門メーカーが音の入り口の選択肢として本機に担わせたい思い、期待が感じられるようです。ファンか否かに関わらず、「音楽が好きでよかった!」そう思える「ALBA」の仕上がり、ぜひ一度ご体感ください!

量感イメージ

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