山本 敦 氏
iPhoneで手軽にハイレゾ音源が聴けたら、音楽を“いい音”で楽しむことがより簡単になる。ロジテックが手のひらサイズのハイレゾ対応DAC内蔵ポタアン「LHP-CHR192」「LHP-AHR192」シリーズを開発・発売した背景には、そんな開発者の想いがある。
エレコムのハイレゾ対応イヤホンを同梱するのが「LHP-AHR192」、本体のみのモデルが「LHP-CHR192」。それぞれにシルバーとゴールドのカラーバリエーションを揃えている。
ポタアン本体には192kHz/24bit対応のDACが内蔵されており、iPhoneをはじめLightning端子を備えるiOS機器に直結し、反対側にイヤホン・ヘッドホンをつなぐだけで、ミニマムなハイレゾ再生環境が構築できる。
まずは本体のセットアップだが、これはあっけないほどシンプル。LightningオーディオアダプターにiPhoneとイヤホン・ヘッドホンを接続し、任意のハイレゾ対応プレーヤーアプリで音楽を再生するだけ。ドライバーのインストールや、そのほかの複雑なセットアップは一切不要だ。バッテリーもiPhoneから自動的にバスパワー供給されるので、本体には電源のON/OFFスイッチすらない。なお本体をiPhoneに接続した状態で、一定時間オーディオ信号入力がなかった場合、自動でスリープするため、iPhoneのバッテリーが無駄に浪費される心配はない。
今回は付属するエレコムのハイレゾ対応イヤホンに加え、筆者がふだん使っているソニー「XBA-Z5」もリファレンスとして用意し、音質をチェックした。
マイケル・ジャクソンのアルバム「XSCAPE」から『Loving You』では、ボーカルの音像がシャープで肉付きもよい。声の存在感がとても身近に感じられ、音の芯から生命力があふれ出てくるようだ。特に高域がクリアで、声の伸びやかさにリミットがない。シンセサイザーのメロディは明るく煌びやか。分厚い低音が空気を震わせる、その力強さに思わずたじろいだ。
XBA-Z5につなぎ替えてみても、パワフルな音の印象は変わらなかった。力のないアンプでは本領を発揮させるのが難しいイヤホンだが、ロジテックのLightningオーディオアダプターを通すと、中低域の音にだぶつきや曇りがなくなり、リズムの正確さと抜き身のような切れ味が顔をのぞかせる。メロディラインの抑揚感が一段と華やぎ、柔らかさも加わる。ディティールにも自然に耳が付いていくようになった。
クラシックは、「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 アレクシス・ワイセンベルク/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリンフィル」のピアノコンチェルトから『第1楽章:モデラート』を聴いた。
付属のエレコム製イヤホンは特に中高域の解像感を引き立たせる傾向。一方のXBA-Z5はよりソリッドで力強い音のアタック感に、びしっとフォーカスが絞られるようだ。iPhoneのイヤホン端子で聴いたときと比べ、組み合わせるイヤホンの特性がはっきりと顔をのぞかせるのが面白い。
ピアニストが鍵盤に触れる指先まで、映画のワンシーンを見ているみたいにリアルなイメージとともに頭の中に描かれる。音のアタックは肉付きが良くなって、ピアニッシモの微小な音まで音像がふっくらとしてくる。演奏の終盤にかけて徐々に高まっていくボルテージと壮大なスケール感も、キャパシティの大きなLightningオーディオアダプターを通すことで、まるで生の演奏が生まれる空間の中で体験しているようなリアリティが、イヤホンリスニングにも関わらず味わえた。
ハイレゾに限らず、スマホで楽しむあらゆる音楽は、良質なオーディオ機器と組み合わせれば、さらにその真価を発揮できる。この楽しさが、より多くの音楽ファンに伝わってほしいと思うし、それを安価に、かつ手頃に実現できるのが今回のロジテックの新製品だ。